フォックス・アンブレラの隠された秘密

今回のテーマは、「フォックス・アンブレラの隠された秘密」について。フォックス・アンブレラの元社長レイ・ギャレットとの交流をはじめ、美しい傘に隠された秘密をひもときます。

日本のファッション黎明期に英国文化が大きく寄与

日本で「フォックス・アンブレラ」を取り扱う際、最初にした事の一つが商標権の確認だった。“FOX(狐)” という一般名詞の場合、誰がどこで当該区分を抑えているか、知れたものではないからだ。並行輸入ではなく日本正規のエージェントとして展開しようしていたので、商標権の確認は必須である。

フォックス・アンブレラの創業は1868年。何月だったかまでの記録はないが、10月23日以降であれば日本は明治の時代である。明治維新では西洋化を急ぐ新政府により断髪や洋装が奨励された。殖産興業、富国強兵の教師として呼ばれたお雇い外国人だけでも2500人を数えたと言う。このうちの約半数は英国人であったのだから、彼らのスタイルが服飾の手本とされたのは自然の流れだ。その中でも、”洋服”と”こうもり傘”は文明開化の象徴だった。

フォックス・アンブレラは大正6年(1917年)に日本の第18類商標登録がされている。確認を依頼した弁理士事務所によれば、大正6年の商標登録は経験上間違いなく最古の登録だったそうだ。1868年に創業した傘ブランドは、英国内では古い方ではないが、だからこそ古参の老舗ブランドがどこもやらなかった日本での商標登録をいち早く行なって積極的に打って出ていたことが伺い知れる。もっともその頃から今まで続いている英国傘ブランドはフォックス・アンブレラとスウェイン・アドニー・ブリッグだけになってしまったけれど。

傘がファッションアイテムとして広がったワケ

さて、英国人のスタイルに話を戻すが、昔から英国において傘は昼間の礼装の欠かせないパーツであった。威厳を形に表したいとき、棒状のものを洋の東西を問わず、持ちたくなるのは人情だ。

そこで軍の将校たちは指揮棒を持った。英国ではスワッガー・スティックと呼ばれる。“Swagger”とは「威張る」、「自慢する」の意である。このスティックがいつ、どうして傘にとって代わられたのかはわからないが、通常 のウォーキング・スティック(杖)は礼装に使わないのに傘は必携となった。

私の手元にある写真には、まだエリザベス皇太后もダイアナ元妃もお元気だった頃、バッキンガム宮殿での園遊会でエディンバラ公をはじめとする男性陣は皆、テイルコートにトップハット、そしてきつく巻いた傘を手にしておられる。

契約を交わした当時、「フォックス・アンブレラ」の製造元は「フォックス・アンブレラ」社ではなかった。その頃の社名を「RJ Royal & Sons」 という。但し書きとして、「世界でもっとも素晴らしい傘メーカー」と言う言葉が入る。 ”R”と“J”は、当時、会社の代表であったギャレットご夫妻、レイ氏とジェニー 氏のイニシャルである。“Sons”にあたるポール 氏とジョン氏が現在会社を切り回しているが、“Royal”という文字はどうして入ったのかはわからない。

しかし、これではブランドやメーカー名として複雑 すぎるという提案 をBLBG株式会社から打診をして、めでたくブランド名との統一が 叶ったというわけだキャッ チフレーズは“Keeping you dry since 1868”。これは日本での展開上、かなり重要 な変更 で、 快く受け入れてくれた「フォックス・アンブレラ」社には感謝しかない。 



(プロフィール)

小石原翁(小石原 耕作)

有名百貨店の英国駐在員として6年間イギリスに在住。その後、ジャガー・ジャパンの設立に参画。1984年から1999年までの15年間に渡りジャガー・ジャパンの広報室長を務める。その後、フォックス・アンブレラ ジャパンの会長を経て、現在はヴァルカナイズ・ロンドンを運営するBLBG株式会社の会長。英国通で、歯に衣着せぬ物言いが持ち味。