Bという名のサイレント・ラグジュアリー

フライングBという言葉を聞かれたことはあるだろうか。これは英国が誇る高級車、「ベントレー」のボンネット上に燦然と輝くマスコットを表している。華やかなりし1920年代。アールデコの巨匠、ルネ・ラリックなどがデザインしたカーマスコットは、富裕層の間で一世を風靡した。このフライングBもゴードン・クロスビーによって同年代にデザインされたものだ。芸術品のようなこのフライングBは、今も一部のモデルに搭載され、そのアールデコ全盛期だった時代の空気を今に伝えている。
ただ、同時代に流行した装飾的なマスコットと比較すると、その力強く美しいBのマークは、レースで無敵を誇った歴史や卓越したクラフツマンシップなど、「ベントレー」らしい実直さを感じさせる佇まいがある。
　サイレント・ラグジュアリー。これはファッションブランドが最近掲げる、今の時代を反映したトレンドであり、毎年消費される華やかなファッションではなく、タイムレスで控えめなスタイルが特徴だ。
このフライングBも100年以上に渡り、数々のアーティストにリファインされてきたが、タイムレスなデザインは今も変わっていない。本物のラグジュアリーは、敢えて声高に主張をすべきでない。そんなことを物静かに、そして雄弁に語りかけているように思える。
ちなみに現代のフライングBは、現代の法基準に適合し安全面に配慮されているだけでなく、ロックを解除するとボンネットにあるマスコットが電動でせり上がり、光り輝く儀式がある。
時代の流れを巧みに取り入れ、美しく緻密に新設計されてきたアート作品のようなフライングB。
ドライバーズシートからそれを眺める芳醇な時間の中にこそ、「ベントレー」を所有する愉悦と満足があるのかも知れない。ファイン・アートの価値と同様で、わかる人だけがわかればいい。そんな、ちょっぴりワガママなクルマの選び方があっても良いのではないだろうか。